蔵見学編  -若鶴酒造-

三郎丸蒸留所で人気の施設見学。

若鶴酒造の歴史や、ウイスキー作りの工程など、60分かけてじっくりご案内いただけます。

当編は殿村氏のガイドから、ウイスキーの魅力をお伝えします。

ウイスキーの原料、麦芽(モルト)

三郎丸醸造最初の工程ですが、スコットランドから船便で二条大麦を仕入れています。
うちは、ピートで乾燥させているので、結構香ばしい香りなんですよね。
鼻の良い方は、たまに匂いを嗅がれる方もいらっしゃいます。今日はあんまり香りしないな…。

六条大麦使っている蒸留所さんもありますが、二条大麦だと1粒1粒が大きくてまろやかなウイスキーが出来るとも言われているんですね。
で、これです、もし良かったら触ってみて下さい。

――何ですか?

スコットランドのピート。泥と植物の固まったもので、今は匂いはしないし汚れも付かないですけど、これに火を入れると物凄い煙と香りを出すんです。

――へえ…。

スコットランドの方で香り付けしてもらうんです。良かったら香り嗅いでみて。

――うわっ。香ばしいです。

食べてもOK。僕は大好き。本当本当、冗談抜きで。食べる?ちょっとワイルド?味、します?

――美味しい!えっ、これ美味しいです。

でしょう?燻製になってるんですよ。何か、スズメさんになったような気分。

(木片を指して)実はね、これ、ウイスキーの樽を分解したものなんですね。
世界から見学の方がお見えになりますけど、僕が目を離すと舐めるマニアの方がいらっしゃいます。

――へー!

業界用語で「チャー」って言います。アメリカにバーボンを作る会社が数十社ありますけど、昔、バーボンを作るのに新樽を1回使ったら廃棄しなさい、という酒造法があったそうです。おそらく新樽の数で税金をカウントしたんでしょう。使い回しされると、生産量が分からないんでしょうね。

――なるほど。確かに。

日本のウイスキー醸造は、アメリカで1回使ったバーボン樽を船便で積極的に仕入れて、狙いたいウイスキーの味を考えながらもう1回自社で焼き込むんです。
これがいわゆるウイスキーの色・味・香り・深み・甘みになるんです。焼き方で色も味もガラッと変わります。

――じゃあバーボン樽の香ばしさを一部貰って、ウイスキーは出来ているってことですか?

そうです。木のタンニンとかいろんな成分が溶け出すんですよ。
後からウイスキーの赤ちゃんを移しますので。だから、舐めるマニアの方がいらっしゃる。

――なるほど、これがウイスキーの味に繋がっているんですね。

そうですね。で、ちなみに、普段はご案内しませんが、実はこの木、まだ漏れています。

――あ、本当だ。

実は、ウイスキーが漏れているんじゃなくて、木の成分が漏れているんですね。
もし良かったら、一生懸命触ってみて下さい。ネチャッとすれば正解です。どうだろう、匂いしますかね?

――お、これだ、これだ。

ありました?匂いを嗅いでみて下さい。

――うわ!ウイスキーだ。

いいでしょう。僕、これでご飯食べれますからね。

――ええー!

これ、ウイスキーじゃないので。木の成分です。

――へえ、そうなんだ。でも香りが、凄い香ばしい…。

でしょう?いい香りでしょう。

粉砕機、糖化タンク

香り付けした二条大麦を、粉砕機で粗挽き・中挽き・粉にします。
うちの黄金比は2:7:1です。例えば100kg挽くと、20kg粗挽き、70kgは中挽き、10kgは吹けば飛ぶような粉にします。
醸造所によっては、3:5:2とか、いろいろですね。
で、この粗挽き・中挽き・粉を合わせたものが、グリストです。グリストを64度の温度で攪拌すると麦汁、麦の汁ができます。

――はあ、なるほど。

で、ここで出来る麦汁の糖度。何と、16度ぐらいです!
男性陣、「…」なんですよ。特に、お父っつぁん連中「全然分かりません」みたいな。

――僕もです、すみません。

ぜひ、スーパーでスイカやメロンを買ってみて下さい。「糖度14」とかって書いてあります。これ、「16」ですよ!

――へえー。なるほど。

美味しいですよ。甘くて香ばしい。

発酵槽、蒸留器

麦汁が出来ましたら、実はここまではビールと一緒なんですけど。
攪拌した麦汁を発酵槽に入れて、上から酵母菌入れると、黄金色の液体が、コポコポと泡を立てながら発酵を始めます。
で、三郎丸蒸留所のメインとなる蒸留器で蒸留します。

――へえ。

蒸留は2回行うんですね。
ピカピカ光ってる煙突みたいなパイプがありますが、以前はステンレスだったものをクラウドファンディングによって銅製のペットに作り替えることができました。
400年の歴史をもつ高岡銅器によるものです。
で、マニアの皆さんは蒸留器のどこを見ていかれるかというと、このパイプ、右肩下がりになっていますよね。

――はい。

当社の業績と一緒で、右肩下がってる…。

――いやいやいや。

これね、下がれば下がるほど、ヘビーなウイスキーができると言われているんですね。

――へえ。

現在、当社のウイスキーはヘビー系・スモーキー系なんですけど、仮の話ですが、時代の変遷とともに売れなった場合、このペットパイプの溶接を外して水平あるいは上向きにすると、ミディアムライトなウイスキーが出来ると言われています。

――へえ…。

そして、蒸留したものからアルコールや香り成分を取り出したものが、ウイスキーの赤ちゃん。業界用語「ニューポット」。
実は無色透明なんですよ。最初に出来るこのウイスキーのアルコール度数、なんと!67度です。

――ええー!

67度!飲んだ瞬間、「おはよう!」みたいな。

――ああ…。

気付け薬みたいな。火を近付けると、ポッて燃えるんですよ。

樽貯蔵庫

ニューポットは67度のまま樽の中に入れず、実はちょっとお水を入れて、63.5度まで落とします。
5年後、20年後、55年後。綺麗なグラデーションに色付きます。
去年の年末まで樽の蓋が無かったんですけど、蓋付きました。盗難防止です。

――ああ、そういうこと…。

お客さん曰く、55年物だと最低でも40万から…。中国の富裕層に見付かっちゃうと200万…。

――お金持ちってすごいな…。

天使の分け前

「よーいドン」でこの棚…例えば10年寝かせるとして、10年後に飲み比べると、お味は全然違うんですよ。

――ええっ。

下段は湿気の影響があるんです。上は温度が高いので、上段・中段・下段でお味が違います。
…なもので、このまま「よーいドン」でウン十年寝かせるパターンもあるし、もうお気付きの通りですね、1年2年毎にローテーション掛ける棚もあります。
で、下段のやつはうちで一番古い樽で、70年80年物の樽です。天板なんかね、もうお仕事し過ぎてこんな波打っています。

――本当だ…。

水平じゃないでしょう? ボコボコになってますでしょう?

――これは吸収したり、大きくなったり?

そうですね、収縮したり膨らんだりで。
部分によっては、こんな風な歪な形になっていますけど、漏れてこないんですね。

――不勉強で申し訳ないのですが、中身は何年くらいで売りに出されるんでしょうか。

「この樽で何十年なの?」という質問をよくされるのですが、どこの蒸留所でも答えない企業秘密です。うちもシークレットです。

――ああ、そうなんですね。失礼しました。

いえいえ。ですから、樽のロゴとナンバリングを台帳と照らし合わせて…僕も大体分かりますが。
あとね、保管の環境下によるのですが、業界で言われているのは、1年毎に2〜4%ずつ減っていくんです。
木も呼吸をしていますし、60度以上のアルコールを入れるので。
業界用語で「天使の分け前」って言います。「Angel's share」。

――なるほど、揮発するんだ。

決して「従業員の分け前」ではないですからね。

――なるほどなるほど。

「天使の分け前」なのでね。

これがうちで一番最大の樽、横に寝ているのが。
450リッター物、シェリーバットって言います。
あとは大概200リッター物の樽です。ちょっと一部、250リッター物もありますけど、これが一応最大ですね。

――へえ…。

樽オーナーさんが付くと「どうなってる?」と言って、10年や20年のスパン、あるいは、じれったい方だと毎年いらっしゃいます。
で、ブレンダーと樽オーナーさんと一緒に、よくかき氷でシロップ掛けるような、柄杓みたいなので、お互いに飲んでみると。
ただ、樽オーナーさんが「出してくれ」っておっしゃっても、うちのブレンダーが「いや、待ってくれ」と言ったら出さないんです。
「もうちょっと待ちましょう」みたいな。そんな相談をしながら、出していますね。

で、寝かせれば寝かせるほど正解かというと、そうでもなくて。
10年で「あ、美味いなあ」と思って、じゃあ11年後、翌年飲むと「あれ?」みたいなこともあるんですよ。
だから難しいですよ。

――それは飲む側の好みも関係するのでしょうか?

そうですね、好みもあります。奥は深いですね。
ウン十年前の樽は、2~3千万円で売れるんじゃないでしょうか。

――凄い…。

でも、商売のキャッシュフローとしては最悪ですよ。ウン十年後じゃないとお金が入らないんですから。
ビールだと作ってすぐ出荷ができますけど、ウイスキーは樽に入れて最低3年掛かるんです。
3年のウイスキー、売れないですからね、日本では。皆、古いのをお好きなので。
だからね、なかなか厳しいですね。

"マッサン"の頃…

年表

ここに日本のウイスキー年表があります。
大正7年に、某NHK某「マッサン」(*1)、某竹鶴さんのお名前がここにあります。

――おぉ!

大正7年にマッサンがスコットランドへ行ってるんですね。
その時、裏チャンネルでは富山の魚津で米騒動(*2)が起こってるんです。
で、竹鶴さん(マッサンのモデルとなった実在の人物)がスコットランド行った後、この辺でビッグネームが来ます。鳥井信治郎さん(サントリー創業者)とか、山崎蒸留所、あるいは余市。
で、この後に、若鶴がウイスキー造りを始めてます、というお話なんですね。

――若鶴さんを入れてスピンオフドラマが作れますね…。

*1 国産初のウイスキー製造のために、大阪から本場スコットランドへと単身で渡った男、政春(通常"マッサン")が、スコットランド人の妻と余市でウイスキーづくりに励む感動秘話。

*2 当時若鶴酒造の主力事業は日本酒だったため、原料となる米の不足で生産が厳しい状況に置かれた。

オリンピックに向けて

日本のウイスキー蒸留所変遷マップです。
1985年、つまり30年以上前、北海道から沖縄までウイスキーの蒸留所は19あったんですよ。ところが、2014年。

うわっ。

9!減るんですよ、ドーンと。5年前はなんと、三郎丸蒸留所は北陸で唯一のウイスキー蒸留所と言えました。

――他は白州、山崎…。

ビッグネーム、いっぱいありますでしょう?
ところが、2017年、3年後、21。税務署さんの情報によると、そこからまた25まで増えたそうです。3年間で9から25に増えたんですよ。
何で急に増えたかおわかりになりますか?

――えっ、何でだろう。海外で日本のウイスキーが注目されているから…?

なるほど。平たく言うと、ハイボールブームでもあるし、「マッサン」の再放送で「マッサン」ブームでもあります。
ところが先ほどおっしゃった通り、実は今、世界的にウイスキーブームなんですね。
で、世界五大産地(*1)と言ってって、ジャパニーズウイスキーが世界ナンバーワン!

――ええっ!

ニュースでも報道されていた通り、山崎の幾つかは販売中止とか、あるいは、山崎の瓶が中国の富裕層で1本1千何百万とか…ということになっているんですよ。
なぜ急に増えたかというと、2017年にプラス3年してください。2020、東京オリンピック。

――なるほど。

はい、さっきご覧いただいた無色透明なウイスキーは、5〜6日でできるんですけど、ウイスキーは樽の中に入れて3年経たないと出荷できないんですね。

そっか…。

ということで、東京オリンピックに向けて、閉じていた蒸留所さんが再開とか、新たに新規ビジネスとして始めた蒸留所さんもあって、2017年日本のウイスキー業界は水面下では大変なことになっていました。
ちなみに若鶴は日本酒を醸しながらウイスキー造っているんですけど、どちらも作っているのは日本では若鶴含め3社だけです。

――オリンピックの特需はこんな業界にまで影響を与えてるんですね…。

*1 世界の5大ウイスキーは日本の他、アメリカ、スコットランド、カナダ、アイルランド。

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